※本記事は日本性機能学会・日本泌尿器科学会のED診療ガイドラインなど公的資料にもとづく医療情報の一般的な解説であり、診断や治療の代わりにはならない。症状や薬の判断は医師・薬剤師に相談してほしい。最終確認日は2026年10月17日。出典の選び方は編集方針に記している。
EDは、日本語では「勃起不全」「勃起障害」と呼ばれる。かつては「インポテンス」と言われていた状態だ。日本性機能学会が2023年に行った全国調査では、勃起の硬さの評価で約3割がEDに当たるとされ、人数にして約1,400万人と推計されている。それでも自分から相談する人は多くない。この記事では、定義、分類、有病率、原因、検査、治療の流れを、日本性機能学会と日本泌尿器科学会のガイドラインを軸に、数字の出典を示しながら整理する。治療薬や加齢・生活習慣との関係は別の記事で扱う。
EDの要点
EDとは|定義と「たまたま」との違い
ED診療ガイドライン第3版(2018年、日本性機能学会・日本泌尿器科学会)は、EDを、満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られない、あるいは維持できない状態が、持続または再発することと定めている。1993年の米国NIH合意会議の定義とほぼ同じで、2015年の国際性機能学会議(ICSM)の整理も踏まえた内容だ。ガイドラインによれば、定義の最後の言い回しは会議のたびに少しずつ変わってきたが、第3版は2012年版と同じ表現を使っている。
ポイントは「持続または再発」という条件だ。疲れや飲酒、緊張で一度うまくいかなかっただけなら、EDとは言わない。MSDマニュアルも、たまに勃起できないことは正常な範囲で、EDを意味しないと説明している。逆に、勃起が全くできない、すぐ萎えて性交に足りない、といった状態が繰り返されるなら、EDの可能性がある。
EDの分類|器質性・心因性・混合性
ガイドラインは、EDを原因から器質性、心因性、混合性の3つに分類している。器質性は血管、神経、ホルモン、陰茎の構造などの異常が主な原因のもの、心因性は不安、緊張、抑うつなど心理的な要因が主なもの、混合性はその両方が関わるものだ。ガイドライン自身も、ほとんどの症例で原因が混ざっていると注意し、「どちらが主因か」で捉えるよう勧めている。
MSDマニュアルによると、見分けの手がかりのひとつが夜間や早朝の勃起の有無だ。睡眠中や朝には勃起する場合は、身体的な原因が少なく、心理的な要因の可能性が高いと考えられる。若くて健康な人が突然発症した、特定の状況でだけ起こる、といった特徴も心因性を示唆するとされる。ただし目安にすぎず、自己判断で決めてよいものではない。
どれくらいの人にあるのか|日本の有病率
EDの数字は、調査の方法や「EDの定義」によって大きく変わる。ガイドラインも、研究ごとに設計や定義が違うため多数の研究を統合して有病率を出すことはできないが、年齢とともに上がる点はすべての研究で共通していると述べている。主な調査をまとめると次のようになる。
| 調査 | 対象と方法 | 結果 |
|---|---|---|
| 日本性機能学会の全国調査(2023年実施、論文は2025年掲載) | 20〜79歳の男性6,228人(37,485人に依頼)、インターネット調査 | 勃起の硬さスコア(EHS)2以下を「ED」とすると有病率30.9%、推計約1,400万人。「EDで困っている」と答えた人は13.0% |
| 日本の全国調査(1998年) | 全国から無作為に2,000人を抽出、回収率55.2%(ガイドライン第3版) | 有病者は推計約1,130万人。ガイドラインの図では中等度ED 24.2%、完全ED 7.2% |
| 4か国の比較(2003年) | 40〜70歳の男性、各国約600人 | 中等度または完全EDの年齢調整後の有病率は日本約34%、マレーシア22%、イタリア17%、ブラジル15% |
| 米国マサチューセッツ男性加齢研究(1987〜89年) | 40〜70歳の男性の地域調査 | 軽度を含めて52%。完全EDは40歳の5%から70歳の15%へ約3倍に |
2023年の調査には注意点もある。同じ調査でもSHIMという別の評価では、何らかのEDの症状がある人が81.0%に上った。論文の著者らは、性交の機会が少ない人が多い日本では、夜間や自慰時の勃起も含めて評価するEHSが適していると考え、30.9%を採用している。一方で、回収率は約17%で、インターネット調査であることも限界として挙げている。学会は、悩んでいても治療を受けた経験のある人は少ないと指摘している。
原因とリスク要因|血管・神経・ホルモン・薬・心理
勃起には、陰茎に十分な血液が流れ込むこと、神経が働くこと、男性ホルモンや性欲があること、心理的な余裕があることが必要だ。MSDマニュアルによると、EDの大半は血管や神経の異常から起こる。ガイドライン第3版はリスク因子として、加齢、糖尿病、肥満・運動不足、心血管疾患・高血圧、喫煙、テストステロン低下、慢性腎臓病・下部尿路症状、神経疾患、手術・外傷、うつなどの精神的要因、薬剤、睡眠時無呼吸症候群の12を取り上げている。
見落とされやすいのが薬と手術だ。降圧薬のうち、利尿薬、β遮断薬、Ca拮抗薬は勃起機能への悪影響を示唆する報告が多いが、薬のせいなのか高血圧そのもののせいなのかは結論が出ていない。5α還元酵素阻害薬や一部の抗うつ薬もEDに関わるとされる。前立腺がんの根治手術後のED発生率は6〜68%と幅広く報告されている。ガイドラインは、薬が疑われる場合の変更・中止を「弱く推奨」しつつ、実際には難しいことが多いと断っている。持病の薬は自己判断でやめず、処方した医師に相談してほしい。
また、EDは心臓や血管の病気の手前に現れることがある。ガイドラインによると、冠動脈疾患の患者では、病気の発生の2〜3年前にEDを自覚していることが多い。12の前向き研究(患者36,744人)のメタアナリシスでは、EDは冠動脈疾患の独立した予測指標(リスク比1.62)だった。EDは全身の血管の状態を映す症状のひとつでもある。
検査|診察でどんなことをするのか
ガイドラインが示す基本の診察は、問診、身体所見、簡単な血液・尿検査だ。問診では、勃起の経過、性欲、射精、早朝勃起、持病、服薬、喫煙・飲酒、運動、心理的な悩みを聞く。勃起の評価にはSHIM(5問の質問票)がよく使われ、より簡単なEHSという4段階の自己評価も使われる。身体所見では、身長・体重からBMIを計算し、血圧と脈、陰茎の変形や硬結、精巣の萎縮を調べ、50歳以上では前立腺の触診も望ましいとされる。血液検査では、過去1年以内のデータがなければ血糖値(空腹時血糖やHbA1c)などを確認する。ホルモン検査は全員には勧められておらず、性腺機能低下を疑う所見があるときに、午前中のテストステロン値を測る。
ガイドラインが引用する研究では、1,276人のED患者の77.1%が、問診(57%)、身体所見(13.9%)、臨床検査(6.2%)というプライマリケアの範囲で診断できた。残りは、夜間の勃起を測るNPT検査、薬剤を陰茎に注射して血管の反応を見る検査、カラードプラ超音波検査などの特殊検査で診断されている。
| EHSのグレード | 内容 |
|---|---|
| グレード1 | 陰茎は大きくなるが、硬くはない |
| グレード2 | 陰茎は硬いが、挿入に十分なほどではない |
| グレード3 | 挿入には十分硬いが、完全には硬くない |
| グレード4 | 陰茎は完全に硬く、硬直している |
SHIMのスコアは、5〜7点が重症、8〜11点が中等症、12〜16点が軽症〜中等症、17〜21点が軽症、22〜25点がEDではないという目安がある。ただしこの区分は外国人のデータで、過去6か月に性交を試みた男性が対象だ。性交の機会がなかった人にはあてはまらない。点数は目安であり、医師に伝える材料として使うのがよい。
治療|ガイドラインが示す流れ
ガイドライン第3版の治療アルゴリズムでは、最初に、治せる原因(薬の影響、ホルモン、睡眠時無呼吸など)がないかを調べ、生活習慣の見直しとリスク因子の是正を行う。そのうえで、本人とパートナーの希望を聞き、カウンセリングを行いながら治療法を選ぶ。内服のPDE5阻害薬が第一選択で、日本ではシルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィルが使える。ガイドラインは、3剤とも国内外で有効性と安全性のデータが十分にあるとして、どれを選ぶかは患者の選択に任せることを強く推奨している。
状況に応じた推奨も示されている。テストステロンが低く、性腺機能低下がある場合には、テストステロン補充療法を強く推奨する。心因性のEDには、薬だけでなく心理療法を併用することを強く推奨する。肥満の食事・運動療法と禁煙指導は、勃起機能の改善のために強く推奨される。睡眠時無呼吸症候群があれば、CPAPの使用を強く推奨する(ただし、2021年のコクラン・レビューは、CPAPを使わない場合との比較ではEDへの効果は確実でないとしており、評価は分かれる)。PDE5阻害薬が効かない、または使えない場合は、陰圧式勃起補助具か、プロスタグランジンE1の陰茎海綿体注射を弱く推奨し、それでも難しいときにインプラント手術(プロステーシス)が検討される。第3版の発行時点では、陰圧式勃起補助具、海綿体注射、プロステーシスは日本では未承認とされている。なお、ガイドラインはPDE5阻害薬に保険適用がないことにも触れており、費用は自費になる。
治療の経過では、使い方の問題が意外に多い。PDE5阻害薬が効かないとして紹介された236人を調べた研究では、再教育で41.5%が有効になり、初期の失敗の81%は服用方法の問題だった。治療の中断も多く、ガイドラインは月4%、1年でほぼ半数が脱落するというメタアナリシスを紹介している。
2025年版ガイドラインについて
日本性機能学会と日本泌尿器科学会は、2025年9月19日に『男性性機能障害診療ガイドライン2025年版』を発行した。ED診療ガイドライン第3版を拡大し、性欲低下、ED、射精障害、ペロニー病、持続勃起症の5章で構成されている。作成委員長へのインタビュー(ケアネット)によると、推奨を付けたクリニカルクエスチョンが24項目ある。本記事で引用した推奨や数字は、全文が公開されている第3版にもとづく。2025年版での変更点までは確認できていない。
受診の目安|こんなときは早めに
EDで困っている人は、まず泌尿器科などの医療機関に相談してほしい。ガイドラインは、診察室でプライバシーと時間を確保することが望ましいとしている。次のような場合は、とくに早めに受診してほしい。
- 勃起しにくい状態が一度きりでなく続いている、または繰り返している
- 運動時の胸の痛みや息切れ、歩くとふくらはぎが痛む、足が冷たいなどを伴う(血管の病気の可能性)
- 陰部や臀部、脚のしびれが出た。突然のしびれは、脊髄の病気の可能性があり、すぐに受診する(MSDマニュアル)
- 糖尿病、高血圧、脂質の異常、腎臓病、睡眠中のいびきや無呼吸の指摘など、持病や気になる点がある
- 降圧薬、抗うつ薬、前立腺の薬などを飲み始めてから勃起の調子が変わった(薬は自己判断で中止しない)
- 前立腺や骨盤の手術、けがのあとから変化した
- 勃起が4時間以上続く(持続勃起症。直ちに受診)
- 気分の落ち込み、不安、パートナーとの関係の悩みが重なっている
まとめ
EDは、満足な性行為に十分な勃起が得られない、または保てない状態が続く、あるいは繰り返される病態だ。日本では約3割、推計約1,400万人という数字が出ている一方、定義や調査方法で数字は変わる。原因は血管、神経、ホルモン、薬、心理などが重なることが多く、全身の病気のサインにもなりうる。診察は問診と簡単な検査から始まり、生活習慣の見直しと内服薬を軸にした治療が基本だ。一人で抱え込まず、医師に相談することが第一歩になる。このカテゴリをはじめて読む人は、はじめての方へも参照してほしい。
よくある質問
Q. EDは何歳から増えるのか?
A. 年齢とともに増えるのはどの研究でも共通している。ガイドラインは、概数として40歳未満で1〜10%、40歳代で2〜15%、60歳代で20〜40%、70歳以上で50〜100%という幅を示している。ただし2023年の日本の調査では、EHSで見た20〜24歳の有病率が26.6%と、50〜54歳の27.8%に近く、若い世代にも少なくない。
Q. たまに勃たないだけでもEDなのか?
A. 一度や数回の不調は、疲れ、飲酒、緊張などで誰にでも起こり、それだけではEDとは言わない。定義は「持続または再発すること」だ。繰り返し困っているなら、一度相談するとよい。
Q. 何科を受診すればよいのか?
A. ガイドラインを作成している日本泌尿器科学会と日本性機能学会の専門領域であり、泌尿器科が基本になる。糖尿病や高血圧で通院中なら、主治医に伝えるのもよい。
Q. 生活習慣の改善だけで治るのか?
A. ガイドラインは、肥満の改善、運動、禁煙を勃起機能の改善のために強く推奨している。ただし日本人での介入研究は限られ、効果には個人差がある。改善しない場合は、検査と治療を受けるとよい。
Q. ネットで売られている薬を使ってもよいのか?
A. 勧められない。ガイドラインは、インターネットなどで入手した薬は品質に問題があるだけでなく、死亡例もあり危険だと述べている。詳しくはED治療薬の記事で解説する。
参考にした資料
- 日本性機能学会・日本泌尿器科学会『ED診療ガイドライン[第3版]』(2018年、全文PDF) https://www.jssm.info/guideline/files/EDguideine03_s.pdf
- 日本性機能学会「ED診療ガイドライン(2025年版男性性機能障害診療ガイドライン)」 https://www.jssm.info/guideline/
- Mindsガイドラインライブラリ「ED診療ガイドライン[第3版]」 https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00469/
- 日本性機能学会プレスリリース「25年ぶりの全国調査で日本人男性の性機能が明らかに」(2024年7月8日) https://www.atpress.ne.jp/news/400999
- Tsujimura A, et al. World J Mens Health 2025;43:239-248(PubMed) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39344114/
- 同論文の全文(PMC) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11704172/
- Nicolosi A, et al. Urology 2003(4か国の有病率、PubMed) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12559296/
- Feldman HA, et al. J Urol 1994(マサチューセッツ男性加齢研究、PubMed) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8254833/
- Barbosa FT, et al. Cochrane Database Syst Rev 2021(睡眠時無呼吸症候群へのCPAPとED、PubMed) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34555186/
- MSDマニュアル家庭版「勃起障害(ED)」(2024年改訂) https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/21-男性の健康上の問題/男性の性機能および性機能障害/勃起障害-ed
- ケアネット「わが国初の『男性性機能障害診療ガイドライン 2025年版』」 https://www.carenet.com/news/general/carenet/62461
気になる症状があるときは
この記事は一般的な情報で、診断や治療の代わりではない。症状が続くときや不安が強いときは、泌尿器科・性感染症外来などの専門医に相談してくれ。保健所では、HIV・梅毒などの検査を無料・匿名で受けられる地域もある。
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