モザイクとは?アダルト映像のぼかしの歴史と刑法175条・基準の変遷

※本記事は歴史・制度の解説であり、特定の作品や商品、サービスを紹介するものではありません。歴史には諸説あり、年号や名称は資料によって異なる場合があります。

日本の成人向け映像では、性器にモザイクをかけるのが当たり前になっている。ただ、その理由を法律の条文から説明できる人は多くない。モザイクは、刑法175条のわいせつ物頒布等の罪と、業界の自主審査が重なってできた仕組みだ。この記事では、作品の中身には触れず、なぜ入るようになったのか、基準がどう変わったのか、技術がどう変わったのかを、年号と制度を中心に整理する。

モザイクの歴史

映画の光学ぼかしから始まった刑法175条と自主審査の二重構造1987年ごろからシースルーが広がる2004年にデジタルモザイクを導入ビデ倫の摘発と審査団体の再編
目次

モザイクとは|画面を粗くして隠す処理

モザイク処理は、映像や画像の一部を四角いブロックに分けて解像度を下げ、細部を見えなくする加工だ。ブロックごとに色の平均や代表値で塗りつぶす方式が一般的で、この方式で処理されたものは、原理上、元の状態には戻せない。ブロックの位置を入れ替えるだけの「可逆」の方式もあり、静止画の一部ソフトで使われたが、元に戻せるモザイクは隠したことにならないという法的判断が出て、急速に廃れたとされる。

テレビ番組では、DVE(デジタル特殊効果装置)を使って、画像メモリの読み出しを間引くことで処理することが多い。同じ「見えなくする」処理でも、ガウスぼかしのように連続的に滑らかにする方法や、別の画像で覆う方法とは仕組みが違う。日本の成人向け映像では、これらを含めて広く「モザイク」と呼ぶのが通例になっている。

フェルメールの絵をモザイク状に粗くした例
モザイク処理のイメージ。ブロックごとに色を平均して解像度を落とすと細部が見えなくなる(フェルメールの絵を粗くした例で、成人向け映像とは無関係)。
撮影・作者: Johannes Vermeer(原画)/acagastya(加工) / CC0 / Wikimedia Commons

なぜモザイクが入るのか|刑法175条と自主規制の二重構造

理由の根っこにあるのは、刑法175条のわいせつ物頒布等の罪だ。1907年(明治40年)に定められた規定で、わいせつな文書や図画、電磁的記録などを頒布したり、公然と陳列したり、販売目的で持ったりすることを処罰する。法定刑は2年以下の懲役(2025年の刑罰の見直し後は拘禁刑)、250万円以下の罰金・科料、またはその併科とされる。2011年の改正で、電磁的記録も対象に加わった。

条文には「わいせつ」の中身は書かれていない。判例が示してきたのは、徒に性欲を興奮・刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの、という考え方だ。1957年3月13日の最高裁判決(チャタレー事件)で定義が示され、1980年の『四畳半襖の下張』事件では、全体を読んだうえで当時の社会通念に照らして判断するという枠組みが加わった。時代によって変わるため、固定的な基準はない。それでも、1990年代以降の摘発の目安としては、性器が露骨に描写されているかどうかが挙げられてきた。

ここで二重構造が生まれる。法律は「わいせつ」の線を具体的には引かず、警察や裁判所の判断に委ねる。一方、作り手と売り手は摘発を避けたいので、業界の審査団体が自主基準を定め、「ここまで処理すれば大丈夫だろう」というラインを作る。モザイクの大きさや濃さは、この自主基準で決まってきた。審査団体の成り立ちは、ビデ倫を扱った別の記事でも触れている。

なお、成人向け作品の性器にモザイクをかける慣行は、日本に特有のものとされる。世界的には、成人向けの映像を無修正で認める国が多いと説明される。

最高裁判所の庁舎(東京都千代田区)
最高裁判所の庁舎(東京都千代田区、2010年撮影)。チャタレー事件など「わいせつ」の判断枠組みを示した判例は最高裁で積み重ねられてきた。
撮影・作者: Wiiii / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

映画の時代のぼかし|アダルトビデオ以前

ビデオ以前の成人向け映画では、モザイクではなく、フィルムに光学的なぼかしをかけて局部を隠していた。映倫(映画倫理規程管理委員会)は1949年に発足し、1956年12月には外部の有識者を委員に迎えた「映画倫理管理委員会」に改組された。成人映画が広がった1960年代以降、審査と摘発の境目はたびたび争われた。

象徴的なのが、日活ロマンポルノをめぐる事件だ。1972年に作品が摘発され、審査にあたった映倫の関係者が起訴されたが、裁判では最終的に無罪が確定した。映画の分野では、審査を通した側が刑事責任を問われうること、しかし有罪とは限らないことが、この時期に示されていた。

出版の世界でも同じ問題があった。写真集や雑誌では、ヘア(陰毛)が長く「性器の一部」として扱われ、小道具や修整で隠された。1991年1月、写真集『water fruit』をめぐって警察が口頭の注意にとどめたことが、事実上のヘア解禁と評される。1992年4月27日には映倫が基準の改定を発表し、同年10月から日常の描写での陰毛は原則として認められるようになった。

VHSビデオカセット
VHSビデオカセット(撮影された個体は欧州のPAL方式で、日本のものとは方式が異なる)。ビデオ撮りの成人向け作品は1981年に登場したとされる。
撮影・作者: LoMit / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons

アダルトビデオの登場とモザイクの変遷|1981〜2000年代

ビデオ撮りの成人向け作品が登場したのは1981年とされる(アダルトビデオの歴史の記事も参照)。同じ時期には、ブルーフィルムの流れを引く非合法の「裏ビデオ」も出回っていた。審査を受けた合法のビデオでは、局部に濃く大きなモザイクをかけるのが基本で、1986年ごろの作品は、モザイクが濃くて物足りないと評されることもあったという。

1980年代の半ばには、警察がビデ倫の審査を通らない作品はわいせつ物とみなしうると示し、多くのメーカーが加盟した。ところが1987年ごろから、ビデ倫に加盟しない「無審査」の作品や、モザイクの薄い「シースルービデオ」が需要を伸ばす。1990年代前半には、小売用のセルビデオがビデ倫とは別の自主審査を行い、陰毛が見えること、モザイクが薄いことを強みにした。1996年にはセルビデオ系の審査団体としてメディ倫が設立され、審査団体の競争が本格化した。

2000年以降には、モザイクの一辺が1ミリ以下といわれる「激薄」の作品も出たが、まともな店に並ぶことはまれだったという。2002年ごろには警察が薄消しの摘発に力を入れ、販売の場が海外のサイトに移る動きも見られた。

2004年10月、ビデ倫は局部の形に沿ってかける「デジタルモザイク」を導入した。2006年8月の審査分からは、陰毛と肛門の露出を解禁する。しかし2007年の家宅捜索、2008年の逮捕につながった。裁判では、モザイクが細かく「直接的な修正はないに等しい」とされ、2011年に有罪判決、2014年に確定したと報じられている。審査団体の動きは、ビデ倫の歴史と合わせて読むと分かりやすい。

モザイクの歴史年表(1907年〜2011年)
刑法175条からデジタルモザイク導入、裁判までの年表(本文の年号による)

技術の変化|アナログからデジタル、そして復元の試みへ

処理の手順も変わってきた。フィルムやアナログのビデオの時代は、装置で映像の上にモザイクを重ねる方法が中心だった。デジタルになると、映像を1コマずつ処理する必要が生じ、被写体の動きに合わせて、モザイクの位置を追いかけ続ける作業が増えた。現在は、モーショントラッキングの機能で対象を自動で追わせる編集ソフトがあるが、ずれた箇所は手作業で直すことになる。

1980〜90年代には、男性向けの雑誌の広告に「モザイク除去機」と称する機器が載った。しかし、非可逆のモザイクは情報が失われているため、元の映像を取り戻すことは原理的にできず、実態は推測で補う処理に近いとされる。近年は、類似画像の統計とディープラーニングで、数字や文字のような単純な形なら復元できるようになったと説明されるが、人の顔のような複雑なものは難しいという。

モザイクを外した映像の流通は、現在も摘発の対象だ。2021年11月、海外の代理店と共謀して無修正の動画を販売したとして、会社役員がわいせつ電磁的記録等送信頒布の罪で逮捕された。2022年3月に東京地裁立川支部は、懲役2年・罰金200万円・執行猶予3年の有罪判決を言い渡している。被告側は、モザイクがないだけで違法とするのはおかしい、条文は表現の自由に反するなどと争った。

見直しを求める声と今後

刑法175条には、廃止や見直しを求める意見もある。保護法益を「社会の善良な性的風俗」とする伝統的な考え方に対し、見る意思のある成人が自発的に買う場合まで処罰するのは妥当でないという議論や、国会議員による見直しの提唱が知られる。一方で、判例は一貫して、この規定が憲法21条に違反しないとの立場をとっている。

映画の分野では、2008年の最高裁判決(メイプルソープ事件)を受けて映倫の基準が緩和された。洋画に限ること、芸術的・医学的・教育的な正当な理由があること、露骨でないこと、R指定とすることなどの条件を満たせば、ヘアだけでなく性器でも、モザイク等の修正をせずに描写できるとされている。モザイクの線引きは、法律や判例、審査団体の基準、時代の感覚が重なって動いているものだと分かる。

まとめ

モザイクは、刑法175条という大きな網の下で、摘発を避けるために業界が積み上げてきた自主規制の産物だ。映画のぼかしから始まり、ビデオ時代の濃いモザイク、競争による薄型化、デジタルモザイクの導入、摘発と裁判を経て、基準は何度も動いた。技術の面でも、処理の自動化や復元の試みが進んでいる。

「なぜ隠すのか」を知るには、法律の条文だけでなく、警察の運用、判例、審査団体の事情の三つを重ねて見る必要がある。その視点が、アダルトビデオの歴史の理解を助けてくれる。

よくある質問

Q. モザイクはなぜ入っているのですか?
A. 刑法175条のわいせつ物頒布等の罪を避けるためです。性器の露骨な描写が摘発の目安とされてきたため、業界の審査団体が自主基準を作り、処理を施しています。

Q. モザイクの基準は法律で決まっているのですか?
A. 法律に具体的な大きさや濃さの定めはありません。判例の考え方と警察の運用を踏まえて、各審査団体が基準を定めています。

Q. いつから入るようになったのですか?
A. ビデオ以前の映画では、フィルムへの光学的なぼかしが使われていました。ビデオ撮りの成人向け作品が登場した1981年以降、モザイクが広く使われるようになったとされます。

Q. デジタルモザイクとは何ですか?
A. ビデ倫が2004年10月に導入した、局部の形に沿ってかける方式です。それまでの四角い処理より、隠す範囲が小さくなりました。

Q. 海外の作品にモザイクがないのはなぜですか?
A. 成人向けの映像を無修正で認める国が多いためです。日本の慣行は、刑法175条の運用に由来する国内特有のものとされます。

Q. モザイクを外した映像は違法ですか?
A. 無修正の映像を販売したり配信したりすれば、わいせつ電磁的記録等送信頒布などの罪に問われることがあります。2021年には販売した人物が逮捕され、2022年に有罪判決が出ています。

参考にした資料

  • Wikipedia「モザイク処理」「わいせつ物頒布等の罪」「アダルトビデオの歴史」「ヘアヌード」「映画倫理機構」「日本ビデオ倫理協会」
  • 日本経済新聞「わいせつDVD審査、ビデ倫元部長に有罪」(2011年9月6日):リンク
  • 弁護士ドットコムニュース「『モザイクないだけで違法はおかしい』 FC2で無修正売った男性、前代未聞の刑事裁判で『わいせつ』の意味を問う」:リンク
  • 弁護士ドットコムニュース「『わいせつ図画販売罪は問題だらけ』 ビデ倫裁判『弁護人』が最高裁判決を批判」:リンク
  • ウィキニュース「アダルトDVD不適切審査でビデ倫幹部逮捕」(2008年3月2日):リンク

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画像の出典

  • 写真: Johannes Vermeer(原画)/acagastya(加工) 撮影(CC0)/Wikimedia Commons
  • 写真: Wiiii 撮影(CC BY-SA 3.0)/Wikimedia Commons
  • 写真: LoMit 撮影(CC BY-SA 4.0)/Wikimedia Commons
  • 年表: 本記事の内容をもとに当サイトで作成
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