※本記事は歴史・制度の解説であり、特定の書籍や商品、サービスを紹介するものではありません。歴史には諸説あり、年号や数字は資料によって異なる場合があります。
エロ本は、売る場所と規制の歴史とともに姿を変えてきた。戦後のカストリ雑誌に始まり、悪書追放運動、1970年代の自動販売機、ビニ本、アダルトビデオ、そして2019年のコンビニ撤退へと至る流れがある。この記事では、中身には立ち入らず、どう流通し、どう規制されてきたかを、有害図書の指定の仕組みも含めて整理する。
エロ本と有害図書規制の歴史
エロ本とは|俗称としての成人向け雑誌
「エロ本」は俗語で、明確な定義はない。性的な興奮を目的とした写真、小説、体験談、イラスト、成人向け漫画などを載せた書籍や雑誌を、読者や世間が指して呼ぶ言葉だ。一般誌との境目もあいまいで、行政や業界の側は「成人向け雑誌」「有害図書」「不健全図書」などの言葉を、それぞれ別の意味で使い分けている。
この記事では、中身ではなく、売り方・流通・規制の歴史に絞って整理する。とくに、1970年代に登場した自動販売機での販売と、それに対する有害図書の指定の仕組みを軸に、戦後から現代までの流れを追う。ビニ本や裏本との関係は、別の記事(ビニ本・裏本・自販機本の歴史)にくわしい。
戦後のカストリ雑誌|1945〜1949年ごろ
戦争中に抑えられていた娯楽出版は、1945年の敗戦後に一気に息を吹き返した。粗悪な紙に刷られ、性や犯罪をあおる内容を売りにした雑誌群は「カストリ雑誌」と呼ばれる。多くが3号ほどで消えたことを、粗悪な密造酒「カストリ」にかけたという説がある。1945年12月に『りべらる』の創刊号が出て、ブームは1946〜1949年ごろまで続いたとされる。
記事の中身は、色街の探訪記、猟奇事件、性生活の告白、小説などだった。赤線・青線の街の案内記事が載ったことも知られる。当時はGHQのプレスコードによる検閲が行われていた一方、1947年には『猟奇』がわいせつ物頒布罪で摘発され、戦後第1号の摘発ともいわれる。『りべらる』は1953年3月まで、『夫婦生活』は1949〜1955年、『裏窓』は1956〜1965年と、後続の雑誌は長く続いた。SM雑誌の『奇譚クラブ』は1947〜1975年に刊行された。
悪書追放運動と最初の条例|1950年代
こうした雑誌や赤本マンガに対し、全国の婦人会やPTAから批判が高まった。これが「悪書追放運動」で、1955年ごろをピークに、有害図書を排除しようとする機運が強まったと説明される。
制度の面では、1950年に岡山県が初めての有害図書排除条例を可決した。続いて1951年に和歌山県、1952年に香川県、1955年には北海道と神奈川県などが条例を定めた。これらは青少年保護育成条例と総称され、有害図書の指定、書店での区分陳列、自動販売機での販売規制といった内容が各地に共通して盛り込まれていった。
運動の道具として知られるのが「白ポスト」だ。子どもに見せたくない雑誌や本を投函するための回収箱で、1960年代に兵庫県尼崎市で始まったとされ、その後全国に広がった。のちにはアダルトビデオやDVDも回収の対象に加わった。インターネットの普及で数は減り、自治体によっては運用をやめたところもある。

撮影・作者: そらみみ / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
出版界の自主規制と東京都の指定制度|1960年代
出版業界も手を打った。1963年12月12日に、日本雑誌協会、日本書籍出版協会、日本出版取次協会、日本出版物小売業組合全国連合会の4団体が出版倫理協議会を設立した。1964年には東京都が不健全図書を指定する制度を始め、1965年に出版倫理協議会は、東京都の不健全図書に連続3回、または年5回指定された雑誌は、小売店から特別な注文がない限り配本しないという申し合わせを決めた。
この申し合わせの結果、繰り返し指定された雑誌は、一般の書店ルートで扱われにくくなった。出し続けるには、成人向けの専門ルートや通信販売に移るか、廃刊するかを選ぶことになる。業界の自主規制が、行政の指定と結びついて働く仕組みが、この時期に作られたといえる。
1967年には、他の道府県で有害図書になった雑誌を対象にした「要注意取扱誌」の制度も始まった。同じころ、『平凡パンチ』『週刊プレイボーイ』などの若者向け雑誌が人気を集め、成人向け雑誌と一般の雑誌のあいだに幅広い中間領域が生まれていく。
自販機本の時代|1975〜1980年代前半
1970年代半ばに現れたのが、自動販売機で売られる成人向け雑誌、いわゆる「自販機本」だ。1975年に取次の東京雑誌販売が自販機部門に進出したことが起源とされ、1976年に自販機専門の卸会社が、1977年に制作会社が設立されて、流通の仕組みが短期間で整った。判型はB5判、64ページ前後で、書店とは別の専用ルートで届けられた。
1980年には月43誌が出され、月産は推定で165万〜450万部、自販機は全国に2万台以上、市場規模は約500億円とされる。数字の根拠は当時の報道が中心で、正確な統計ではない点に注意したい。業界の自主規制の対象外にあったため、誌面の自由度が高く、サブカルチャー色の強い誌面で知られたものもあった。
しかし、24時間・対面なしで買えるため、未成年が手にしやすいという問題が指摘された。1980年には日本PTA全国協議会が有害図書の販売規制立法を求める請願を国会に提出し、同年には43都道府県で青少年保護育成条例が整ったとされる。1980年ごろから、修整の薄いビニ本が登場すると自販機本は縮小に向かい、規制の強化もあって、1980年代半ばに事実上消えた。その後の主役は、アダルトビデオに移っていく。
自販機規制の合憲性|1989年の最高裁判決
自動販売機での販売規制をめぐっては、最高裁まで争われた事件がある。三重県四日市市の自販機業者が1985年、岐阜県内の自販機に、県知事が指定した有害図書を収納したとして、岐阜県青少年保護育成条例違反で起訴された。業者側は、有害図書の規定は検閲の禁止や表現の自由に反すると主張した。
1989年9月19日、最高裁第三小法廷は上告を棄却した。有害図書の指定は検閲に当たらず、自販機への収納禁止も憲法21条1項に違反しないと判断した。理由として、有害図書が青少年の健全な育成を妨げることは社会の共通認識であること、自販機は時間を問わず対面せずに買えるため書店より弊害が大きいことなどが挙げられた。一方で、伊藤正己裁判官は補足意見で、青少年の保護という特殊な事情があるから許されるのであって、表現の自由を制約する以上、明確性が求められると指摘している。

有害図書の指定のしくみ|個別指定・包括指定・自主規制
現在の有害図書の制度は、都道府県の青少年保護育成条例に基づく。主な方式は四つある。
一つ目は個別指定で、知事が審議会を経て、個々の図書を指定する。指定された図書は、包装して成人向けの区画に置く必要があり、18歳未満への販売は禁じられる。二つ目は包括指定で、東京都と長野県を除く道府県に見られ、一定の基準を満たす図書を自動的に有害図書とみなす。三つ目は団体指定で、業界団体が成人向けとした作品を有害図書類とみなす自治体がある。四つ目は自主規制で、東京都の条例は、発行者や自主規制団体に成人向けマークを付ける努力義務を課している。
東京都の場合、都が書店やコンビニの一般書棚から毎月多数の本を購入して候補を選び、出版・流通の代表者が意見を述べる「自主規制会議」と、第三者機関の審議会を経て、知事が指定する。条例には、指定図書類を自動販売機に収納することの禁止、他の図書との区分陳列、包装の義務も定められている。
名称の面では、2024年に東京都が「不健全図書」を「8条指定図書」に、大阪府が「有害図書」を「13条指定図書類」に改めたとされる。なお、県単位の条例を持たなかった長野県でも、2016年7月に「長野県子どもを性被害から守るための条例」が施行され、全都道府県に条例が整った。
1990年代以降|マーク制度、ヘアヌード、コンビニの撤退
1990年代に入ると、売り方のルールが細かくなる。出版倫理協議会は、1991年に成人向け漫画の単行本に「成年コミック」マークを付ける申し合わせを決め、1996年には成年向け雑誌にマークを付ける運用を始めた。2004年には、コンビニで売られる「グレーゾーン誌」に、立ち読みを防ぐシール止めを実施している。
表現の面では、1991年1月の写真集『water fruit』への警察の対応が、事実上のヘア解禁と評され、1992年には映倫も基準を改めた。1990年代半ばにはヘアヌードが雑誌や映像で日常的なものになったとされる。
その後、インターネットの普及で紙の成人向け雑誌は存在感を落とした。2019年1月、セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートが相次いで、同年8月末までに成人向け雑誌の取り扱いを中止すると発表した。ミニストップは2018年1月に取り扱いを終えていた。自販機は一部で残り、2018年時点で成人向けの雑誌やDVDを売る自販機は約500基とされたが、自販機専用に作られた雑誌ではないため、「自販機本」とは呼ばれない。
まとめ
エロ本の歴史は、売る場所と規制の歴史でもある。戦後のカストリ雑誌から悪書追放運動、自販機本、ビニ本、アダルトビデオ、コンビニの撤退へと、主役と売り場は入れ替わってきた。その都度、条例や業界の自主規制が追いかける形で整えられた。
有害図書の制度は、わいせつ物を罰する刑法とは別の、青少年を守るための仕組みだ。どの図書が、誰に、どこで売れるのかという視点を持つと、成人向け出版物の歴史が立体的に見えてくる。
よくある質問
Q. エロ本の定義は何ですか?
A. 俗語で、法的・業界的な明確な定義はありません。行政は「有害図書」「不健全図書」、業界は「成人向け雑誌」など、別の言葉を使っています。
Q. 自販機本とは何ですか?
A. 1970年代半ばから1980年代半ばに、自動販売機で売られた成人向け雑誌です。自販機専用の流通で届き、書店では扱われませんでした。
Q. なぜ自販機本は消えたのですか?
A. 修整の薄いビニ本の登場、アダルトビデオの普及、そして条例による自販機規制の強化が重なったためとされます。
Q. 有害図書とは何ですか?
A. 性や暴力などを露骨に、または興味本位に扱い、青少年の健全な育成を妨げるとして、条例に基づいて指定される出版物です。
Q. 最初に有害図書の条例を作ったのはどこですか?
A. 1950年に岡山県が初の排除条例を可決したとされます。その後、各地で青少年保護育成条例が整いました。
Q. コンビニはいつ成人向け雑誌をやめましたか?
A. 2019年1月に大手3社が同年8月末までの取り扱い中止を発表しました。ミニストップは2018年1月に終えています。
Q. 有害図書と刑法のわいせつ物は同じですか?
A. 別の制度です。刑法175条は誰に対してもわいせつ物の頒布を処罰し、有害図書の規制は、青少年への販売や陳列を条例で制限するものです。
参考にした資料
- Wikipedia「エロ本」「自販機本」「有害図書」「青少年保護育成条例」「出版倫理協議会」「カストリ雑誌」「白ポスト」「ヘアヌード」「岐阜県青少年保護育成条例事件」
- 東京都「東京都青少年の健全な育成に関する条例」(例規集):リンク
- 大尾侑子「『白ポスト』はいかに“使われた”か? 1960-70年代の悪書追放運動におけるモノの位相」(J-STAGE):リンク
- Business Insider Japan「コンビニ各社が成人向け雑誌の販売中止」(2019年):リンク
このテーマの全体像:日本の性文化史ガイド(成人映画・出版・表現史)
成人映画・出版・メディア・わいせつ裁判の年表と読み方。前後に読むならこのあたり。
画像の出典
- 写真: そらみみ 撮影(CC BY-SA 3.0)/Wikimedia Commons
- 年表: 本記事の内容をもとに当サイトで作成

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