※本記事は歴史・制度の解説であり、特定の作品や商品、サービスを紹介するものではありません。歴史には諸説あり、年号や名称は資料によって異なる場合があります。個人名は伏せ、役職名で記述しています。
ビデ倫の名で知られる日本ビデオ倫理協会は、アダルトビデオの内容を事前に審査していた業界の自主規制団体だ。2007年に警視庁の家宅捜索を受け、2008年には審査部門の幹部が逮捕されるという異例の事件を経て、審査業務を終えた。この記事では、作品の中身には立ち入らず、団体の成り立ち、摘発と裁判の経過、その後に審査の仕組みがどう変わったかを、年号と制度を中心に整理する。
ビデ倫の歴史
ビデ倫とは|アダルトビデオの自主審査団体
日本ビデオ倫理協会(通称ビデ倫)は、アダルトビデオの内容を事前に審査していた業界の自主規制団体だ。メーカーで構成される会員制の任意団体で、法人格はなかった。国の機関ではなく、審査に法的な強制力があったわけでもない。それでも長いあいだ、「ビデ倫の審査済み」であることは、流通や販売の場面で一つの目安として働いた。
この団体の歴史は、映像の過激さをどこまで許すかという線引きを、警察の判断と業界の都合のあいだでどう決めてきたかの歴史でもある。2007〜2008年の摘発では、審査する側が刑事責任を問われるという異例の展開をたどった。
発足から確立まで|1972〜1980年代
始まりは1972年2月とされる。東映ビデオ、日活、日本ビコッテの3社が「成人ビデオ倫理自主規制懇談会」を発足させ、映画の審査団体である映倫の基準を準用して自主審査を始めた。背景には、1970年代初頭に警察の摘発が相次いでいたことがあるという。映画の側で成人向けの路線が広がった時期でもあり、日活ロマンポルノの歴史の記事で触れた映倫と裁判の話とも地続きだ。
1977年1月には「日本ビデオ倫理協会」に改称し、定款や規約、審査体制を整えて他のメーカーにも門戸を開いた。審査組織は年々拡充され、学識経験者による評議員会も置かれた。
転機は1980年代に訪れる。1981年に最初のアダルトビデオが発売され、家庭用ビデオデッキとレンタル店が広がると、作品数が一気に増えた(くわしくはアダルトビデオの歴史を参照)。1982年末ごろにはレンタル業界で加盟メーカー以外の作品を扱わない傾向が強まり、加盟社が急増したとされる。さらに1985年ごろ、警察がビデ倫の審査を通っていない作品はわいせつ物とみなす可能性を示したため、多くのメーカーが加盟を選ばざるをえなかった。同じ時期のビデ倫は、3分以上続く連続した描写を認めないなど、表現を細かく規制していた。
審査団体が増えた時代|1990年代〜2000年代前半
1980年代後半になると、ビデ倫に加盟しない「無審査」のメーカーが現れた。1987年には、モザイクが薄い「シースルービデオ」が需要を伸ばしたとされる。1990年代前半には、小売用のセルビデオが、ビデ倫とは別の自主審査を行うようになった。この時期、写真集や週刊誌でヘアヌードが解禁されたことを受けて、加盟各社は陰毛の規制緩和を求めたが、ビデ倫は反対したと伝えられる。結果として、インディーズ系メーカーの台頭を許したという見方がある。
1996年には、ソフト・オン・デマンドなどのセルビデオ系メーカーが中心となって、メディア倫理協会(メディ倫)が設立された。ビデ倫に対抗する形での設立とされる。アダルトゲームの分野では、1992年にコンピュータソフトウェア倫理機構(ソフ倫)が発足しており、映像の審査団体は複数が並び立つ状態になった。
競争の中で、ビデ倫も基準を動かした。2004年10月には局部に沿った「デジタルモザイク」を導入し、2006年8月の審査分からは陰毛と肛門の露出を解禁した。基準の変遷はモザイクの歴史の記事でもまとめている。
2007年の家宅捜索と2008年の逮捕
2007年8月、警視庁保安課がビデ倫に家宅捜索に入り、資料を押収した(8月23日とされる)。モザイクの薄いDVDの販売を手助けした疑いによるもので、ビデ倫にとっては初めての警察による強制捜査だった。
翌2008年3月1日、ビデ倫の審査部門の統括部長と、制作会社の社長らが逮捕された。容疑は、わいせつ図画販売のほう助などだ。報道によれば、問題となったのは2006年秋ごろに会員メーカー2社が発売した2作品で、モザイクが薄く、審査済みのシールが貼られて流通していた。審査機関の担当者が立件されるのは異例とされた。警察は、2004年と2006年に進めた基準緩和の経緯にも関心を向けていたと伝えられる。
ビデ倫は2008年6月限りで新規の審査業務を終え、過去の作品の管理に専念することになった。事件の影響は審査団体の再編にもおよび、ここから業界の自主規制の仕組みは大きく組み替えられていく。
裁判の経過|2011年の判決と2014年の確定
刑事裁判では、2011年9月6日に東京地裁が判決を言い渡した。報道によると、審査側の3人(元審査部統括部長と元審査員2人)に罰金50万円、メーカー側の2人に懲役10月・執行猶予3年が言い渡された。裁判長は、問題のDVDについて「モザイク処理が細かく、直接的な修正はないに等しい」としてわいせつ性を認めた。また、他の自主審査機関が台頭して収入が落ち込んだビデ倫が、基準緩和を求める会員メーカーの意向に押される形で、わいせつなDVDを合格させたと指摘したという。被告側は、作品にわいせつ性はないとして無罪を主張していた。
その後、2014年10月7日に最高裁第三小法廷が弁護側の上告を棄却し、元審査員を有罪(罰金50万円)とした1・2審判決が確定したと報じられた。この判断は、審査団体の「審査済み」が、刑法上の判断を代わりに引き受けてくれるわけではないことを示したものとして受け止められた。一方で、弁護側からは、わいせつの基準が不明確だとして判決を批判する声も出ている。
なお、刑法175条(わいせつ物頒布等の罪)は1907年に定められ、2011年の改正で電磁的記録も対象になった。「わいせつ」の判断は時代の社会通念によって変わるとされ、1990年代以降の摘発では、性器が露骨に描写されているかどうかが目安とされてきた。
事件後の審査団体|日映審から映像倫、日本コンテンツ審査センターへ
審査団体の再編は、事件の前から進んでいた。2006年4月、経済産業省の指導のもとで、複数の倫理団体が審査基準の一本化を協議することになり、同年9月にはコンテンツ・ソフト協同組合(CSA)、ビデ倫、ソフ倫、制販倫の4団体の合意で「審査センター」が設立された。審査業務はここに委託される形になった。
2008年6月25日、ビデ倫の加盟メーカーは「日本映像倫理審査機構(日映審)」の新設を発表した。同年7月1日に任意団体として発足し、2009年7月に一般社団法人になった。2010年12月1日には、CSAの内部組織だったメディア倫理委員会と審査業務を統合して「映像倫理機構(映像倫)」が発足し、日映審は組織と業務を譲渡して解散した。2011年7月には審査センターを吸収合併し、2016年1月には東日本コンテンツ・ソフトなどとも審査業務を統合して、現在の「日本コンテンツ審査センター」に名称を変えている。
つまり、1972年に3社で始まった自主審査は、競争と再編、摘発を経て、2010年代には少数の団体に集約された。審査を受ける側は、いまも各団体の基準に沿って作品に処理を施している。

第三者機関という新しい流れ|AV出演被害をめぐる動き
審査団体とは別に、出演者の人権を守る目的の仕組みも生まれた。2016年3月に国際人権NGOのヒューマンライツ・ナウが出演強要をめぐる報告書を発表し、2017年3月には内閣府の男女共同参画会議が報告書を公表した。この流れを受けて、2017年4月に業界の第三者委員会「AV業界改革推進有識者委員会」が発足し、同年10月1日に後継の「AV人権倫理機構」が設立された。機構は、作品の販売停止窓口の運営などを行ったが、2024年3月31日に活動を終えている。
法律の面では、2022年6月にAV出演被害防止・救済法が成立し、施行された。契約書面の交付や、撮影から公表までの期間、公表後の契約解除などについて定めている。内容の詳細は内閣府男女共同参画局の案内が分かりやすい。表現の線引きを扱う自主審査とは別に、出演契約の適正さを問う枠組みが加わったことになる。
まとめ
ビデ倫は、1972年に3社の懇談会から出発し、レンタル時代に業界の事実上の標準になった。だが、審査団体どうしの競争で基準が緩み、2007〜2008年の摘発と裁判に行き着いた。その後は日映審、映像倫を経て日本コンテンツ審査センターへと集約され、近年は出演者の人権を扱う第三者機関や法律も加わっている。
自主規制の仕組みは、法の線引きがあいまいなところを、業界の取り決めで補う形で成り立ってきた。誰がどの基準で審査するのかという視点で見ると、アダルトビデオの歴史がぐっと分かりやすくなる。
よくある質問
Q. ビデ倫とは何ですか?
A. 日本ビデオ倫理協会の略で、アダルトビデオを事前に審査していた自主規制団体です。国の機関ではなく、会員制の任意団体でした。
Q. いつ設立されましたか?
A. 1972年2月に3社が発足させた「成人ビデオ倫理自主規制懇談会」が前身で、1977年1月に現在の名称になりました。
Q. 2007年に何があったのですか?
A. 2007年8月に警視庁が家宅捜索を行い、2008年3月に審査部門の統括部長らが、わいせつ図画販売のほう助などの疑いで逮捕されました。
Q. 裁判の結果は?
A. 2011年に東京地裁が有罪を言い渡し、2014年10月に最高裁が上告を棄却して、元審査員の有罪が確定したと報じられました。
Q. ビデ倫はいまもありますか?
A. 審査業務は2008年6月に終了しました。その後、日映審、映像倫を経て、現在は日本コンテンツ審査センターが審査を行っています。
Q. モザイクの基準は誰が決めているのですか?
A. 法律に具体的な基準はなく、各審査団体が自主基準を定めています。判断の目安は刑法175条の運用と判例です。
参考にした資料
- Wikipedia「日本ビデオ倫理協会」「日本コンテンツ審査センター」「コンテンツ・ソフト協同組合」「AV人権倫理機構」「わいせつ物頒布等の罪」
- ウィキニュース「アダルトDVD不適切審査でビデ倫幹部逮捕」(2008年3月2日):リンク
- 日本経済新聞「わいせつDVD審査、ビデ倫元部長に有罪」(2011年9月6日):リンク
- 日本経済新聞「元審査員の有罪確定へ ビデ倫モザイク事件」(2014年10月7日):リンク
- 弁護士ドットコムニュース「『わいせつ図画販売罪は問題だらけ』 ビデ倫裁判『弁護人』が最高裁判決を批判」:リンク
- 内閣府男女共同参画局「AV出演被害問題について 法律の内容を知りたい方へ」:リンク
- 一般社団法人日本コンテンツ審査センター 公式サイト:リンク
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